尾高 |
ありがとうございました。時間もそろそろ限られてきました。 次の時代をどう展望するかということについて、共通しているのはどんなことなのかということも含めて、最後にパネリストの方々に一言ずつ頂きたいと思います。この危機を、本当の意味で乗り越えていくために、人間が大切にされる仕組みがどうつくられ、どう守られていくのか。その中に、労働者がどう意識的にかかわっていくのかということがキーワードとなっているように思えます。それでは、一言ずつ、ご感想も含めてお願します。いかがでしょうか。 |
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ディーセント・ワーキング・タイムにあらわれる労働者のありかた 尊重されなければ、経済危機は乗り越えられない |
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牛久保 |
私の近頃の問題意識をまとめて書いたものを印刷物として配布していますが、そこで紹介しているディーセント・ワーキング・タイムということに触れて、今、司会者の方がおっしゃった、共通する何か、ということを話したいと思います。 ディーセント・ワーキング・タイムという「人間らしい労働時間」という考え方の中に、今、国際的に大切にされている価値観のようなものが出ています。 「人間らしい労働時間」といえる第一番目の要素は、「健康によい労働時間」であるということ。人間が健康でなければならないということが第一番目に出てくる考え方です。 二つ目には「家族に友好的な労働時間」であるということ。ILOは、一貫して、家族という問題が中心に据えられているのですね。家族全体が、将来の子供たちと自分の老後も含めて生活できるような労働時間。フレンドリー(友好的)というのは、べったりではダメなのだそうで、一人ひとりが自立した人間として協力し合える、そういう生活ができる労働時間でなければならない。 三つ目には「男女平等を進める労働時間」であること。男性の膨大な長時間労働が男女平等をいま破壊しているという考え方に立っているのです。 四つ目には、「それらのことを通じて、はつらつした労働力が実現して、生産的な労働時間」が出来上がるということ。 五つ目に、それらのことについて、「労働者の選択と決定が認められる労働時間」でなければならないといことです。 労働時間の問題として語られているのですが、これは、労働時間に限られない、労働者のありかたを示す考え方として尊重されなければならないということになってくるのではないか。そういう社会を、日本と全世界につくっていくということがなければ、高田先生の言葉ではないですが、この経済危機は乗り越えられないということを、あらためて今日、確信をもちました。私なりにまた努力をしていきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。 |
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尾高 |
高田先生、お願い致します。
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働いている一人ひとりの常識が重要な評価基準 連帯が社会の根幹をなしているという価値観を 共有していく必要がある |
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高田 |
最後にもう一度発言の機会が与えられましたので三つだけ申し上げたいと思います。 一人ひとりが「常識にかなっているかな」とみるかどうかが大事 一つは、みなさんが働いている企業、あるいは社会が健全であるかどうかという基準として、そこで生き、働いている一人ひとりが「常識あるいは良識にかなっているのかな」という基準で判断することが、とても大事だということです。経済学者、社会評論家、政治家が頭で考えて言うことではなくて、まずみなさんが、現場で働き、いろいろな経験をし、悩み考える中で、「これってまっとうなことなのか」という自分の常識ですね。これが、長い目でみると、社会の在り方について、もっとも重要な評価基準になるということです。自分が培ってきた常識にかなっていない仕組みや労働条件、人間関係は、多分間違っていて、そして長続きしない。そういう常識や良識に合わない状態が是正されないで続いてゆけば、いずれ非常に深刻な問題が起きてきて、改革が必要になってくる。 私も学者のはしくれですが、私のいうことよりも、みなさん自身の常識をまず大事にする。そこから社会を見ていくということが非常に重要だということです。 異議申し立てできる仕組みがあることが、企業でも社会でも決定的に重要 それから、どういう労働条件なり、企業の仕組みがいいかということでは、先ほど牛久保先生がディーセント・ワーキング・タイムに触れて5点、とても大事なことが言われ、それは全部当てはまると思いますが、あえて二つ付け加えたいと思います。 一つは、誰でも不利益を感じたら異議申し立てができ、その異議申し立てが取り上げられるチャンネル、仕組みがあるということが企業でも社会でも決定的に重要だということです。これは、民主主義の大原則だと思います。 私は、アメリカの地域再投資法について興味を持ち、研究をしましたが、その理由は、地域再投資法と呼ばれるわずか2、3ページの法律ができたことによって、金融機関と取引をしている地域の中小企業や個人が、不利益を被ったと思えば監督機関に異議申し立てができるということに興味をもったためです。その異議申し立てが取り上げられて公聴会が開かれたり、実際に教会であるとか、地域の活動組織であるとか、商工団体であるとか、いろいろな団体と、自分が受けた不利益について協議し、問題が解決しなければ、議会にまで行ったり、監督機関の裁定にまで行くというチャンネルがあるということが、アメリカの地域活動組織、コミュニティバンク(注11)を支えているのです。 異議申し立てをする機会がなくて、やっても取り上げられなければ、だんだんしなくなります。そうすると、現場の知恵や経験が吸い上げられず、いかされないということでは、大変な社会的な損失だと思います。ですから、我々は、不利益を被っていると思ったら異議申し立てができる。それがしかるべき手続きで取り上げられて、何らかの形で検討され、政策あるいは調停結果に反映される。企業でも社会でもそういう仕組みを一つずつ広げていく必要があるということです。
人間の連帯を広げる社会、企業のありかたが求められる もう一つは、労働の条件にしても、その他のことにしても、人間の連帯を大事にし、広げていくような社会のあり方、企業のあり方を求める必要があると思います。政府や企業は、個人に対して社会的な大きい権力です。働く一人ひとりの人間、消費者一人ひとりは、市民一人ひとりとしては権力をもっていないわけで、そうした大きな権力に対して自分たちの異議申し立てを通していこうとすれば、多数の連帯というもう一つのパワーをつくるしかないわけです。 われわれが社会的に異議申し立てをした場合に、その後ろ盾になる唯一のパワーは人々の連帯だと思います。もちろん異議申し立てに筋が通っていなければなりませんが、筋の通った話を有効に実現していくためのパワーとして、我々には、働く者あるいは地域で暮らしをともにする、共通の問題に関心のある者同士が連帯する以外にない。連帯がわれわれの唯一の力の源泉なので、そういう意味では、企業でも社会でもあらゆるところで人間の連帯が大事にされる、連帯が広がっていくような仕組みや運営を求めていく、あるいは、それを支持していくということが重要ではないでしょうか。 自分一人が頑張ればいいとか、我慢すればすむとか、そういう考え方ではなくて、やっぱり人間の連帯が社会の根幹をなしているという価値観を共有していく必要があるのではないかとつくづく思います。その点で、みなさんの労働組合というのは、まさに一緒に働く人たちの連帯を唯一の成立基盤にしている非政府組織であり、連帯の重要性を社会全体に訴えて行くのにもっともふさわしい組織であるといえるのではないでしょうか。 |
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尾高 |
ではまとめも含めまして吉田委員長、お願いします。 |
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激動に放り込まれる労働者 主張する状況守ることが大前提 労働組合が胸を張れる時代 確信もって明日から実践していこう |
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吉田 |
三つだけ、今日の感想をのべたいと思います。 主張できる状況を守る 時代を変える力を失わずに、みんなの力を結集していくために 次の時代は、労働者がどう頑張るのかということを抜きに切りひらかれないということが、大きく言えば今日の論議に通底しています。連帯の力を可能な限り広げて、異議申立てをして社会を変えていくということにチャレンジをしていくということが求められているのだと思います。 ただ、同時に申し上げたいことは、私たちの労働運動には、まず向き合っている事態との関係でとりくみをしていくという現実がある。次の時代は、世界の経済がどうなり、日本の経済がどうなり、選挙がどうなって、そのなかで政府と国民の力関係がどうなってという局面を経ながら変わっていくことになるのでしょうから、そこを変えるために頑張りながらも、一方では、激動のなかに労働者が放り込まれ、もがきくるしむという状態が続いていくと思うのです。そこのところを避けて労働運動は現実には語れません。じゃあ、そういう現実の中で、時代を変えていく力を失わずに、可能な限りみんなの力を結集していくために、何をもっとも大事にしなきゃいけないのか。 黙っていたら、その激動の中で、どうされるかわからない。日々、どこに連れて行かれるかわからないという状態が続くばかりで、そうなってくると僕らの未来なんて全くひらけないことになりますよね。だから、この時代の運動、労働組合の活動の基本的な大前提は、とにかく労働者みんなが主張できる状況を、力を合わせて守っていくこと。それがあってはじめて、目の前の事態をもたらす経営者をただし、未来をみすえて社会をただして、ということを心がけて頑張る条件が守られる。だから、もがいいている中からでも、労働者が「主張できる」という状況をなんとしても守っていくということが、いまの労働運動のベースにすえられるべきです。 生活、雇用、労働条件守ることが次の時代の展望につながる その上で二つ目に、今日の討論で勇気づけられたことは、自分たちの生活や雇用、労働条件を守っていくこと自体が、次の時代を展望がもてる時代にするために、きわめて重要な意味をもつということです。そういう意味では、労働運動はいま、胸を張らなければならない時代に入っているということだと思います。自分たちが大事にされることが、社会全体が持続可能になり、地域が守られて、一人ひとりの国民が豊かになっていくことにつながる。そのことに依拠して、僕たちの損保産業も発展し、企業としても発展し、金融も発展していくと。そういうふうに変わっていく。そのような道筋が今日、きわめて良くわかりました。だから胸を張って自分たちの生活や雇用や労働条件を守るという主張や運動をしていこうではないか、ということを訴えたいと思います。 将来の社会も構想し、産業を変えることができるのは、労働組合しかない もう一つ明らかになったことは、今、再編「合理化」情勢が始まって、目の前の経営を見ると、「統合しますから」、「増資をしましたので」、「効率化しないと生き残れませんし」、「みなさん我慢してください」みたいなことばかりが続いていくのですが、この延長線上に展望なんて全くないということが今日はっきりしたと思います。今日、与えていただいた視点で、自分たちの損保産業を見ていったとき、真に「健全」な社会がつくられて、「健全」な損保がそこに息づいていくということに展望が切りひらかれる。そこに全体が直されていかなければいけない。その視点で今、損保をばっと見たとき、この産業がいかに歪んでいたのかが私自身にはよくわかりました。 みなさんもおわかりになったと思いますが、損保のなかで一番重要な問題は、合併してでかくなり、とにかくこの危機を乗り切り、その先にとにかく効率化をして、生き残る作戦をいくつ立てられるか、などということではない。きちんと社会的役割を構築し直す、そのために持続的なしっかりした社会をつくって、そこに依拠する損保に戻っていくということ。「そこに戻る」ということがどこからも語られていないことが、実は一番大きな危機ではないかというふうに思います。 私たち労働組合は、目の前の問題への対処に追われるということがどうしてもあります。次から次への課題をさばく、なんていうことにもなりがちです。しかし、将来の社会をこうするのだ、ということまで構想しながら、損保産業をこう変えましょうと言える存在は誰かといえば、それができるのは労働組合だけです。経営者は、経済を変えるという存在ではそもそもなく、それをめざした社会的力も持ち合わせていません。そういうところまで考えたときに、自分たちの将来を語ったり、守ったり、つくったりという上でも労働組合は胸を張るべき時代になっているんだろうなと思います。 胸を張れる労働組合を、ここにもっているということをみんなで確信し、この組合で何ができるのかということを、明日から実践的にみんなで考えて、運動を実りあるように進めいこうではないか、ということを訴えまして、私の最後の発言にしたいと思います。ご静聴ありがとうございました。 |
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土方 |
以上を持ちましてパネリストの方のご発言を終了致します。大変ありがとうございました。本日のディスカッションでは、冒頭に、私たちが金融のあるいは損保の労働者としてどのように働き、また労働組合の活動としてどのようなことをしていけばいいのかということを一緒に考えていきましょうということを申しあげました。本日の討論では、私たちの働きや運動にあたってのヒントを与えてくれたと思いますし、また、頑張っていこうという活力を与えていただいたと考えています。大変ありがとうございました。 |
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尾高 |
今日集まられたみなさんのなかにはかなりの方々が組合の機関役員の方もたくさんいらっしゃいます。今日のお話を聞いて、私もそうですがヒントになったことがたくさんあると思うのです。職場の人たちからいかに声を出させるのか、そのために機関の果たせることはなんなのかということを考え合わせていきながら、本当の意味でのこの危機を乗り切って展望を切り開くためにはどうしたらいいのかということを、機関と職場が一緒になって考えていきながらともに努力を尽くしていきたいと思います。今日はみなさん、ご苦労様でした。 |
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中村 |
パネリストの方々、コーディネーターの方々、ありがとうございました。今日は125名の参加により本日のシンポジウムも大成功を収めることができたと思います。改めて拍手を送っていただいてこの場を締めくくりたいと思います。どうもありがとうございました。 |
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