要求討議のスタートに位置づけ賃金討論集会を開催

2025年春闘構築にむけて
情勢認識を深め意思統一

要求討議スタート 労働者の分断に抗して労働組合がたたかう重要性を学び、春闘にむけて課題を共有し合った賃金討論集会
要求討議スタート 労働者の分断に抗して労働組合がたたかう重要性を学び、春闘にむけて課題を共有し合った賃金討論集会

 11月23日、東京で賃金討論集会を開催しました。この集会は、例年、春闘構築のスタートにあたって、とりまく情勢への認識を一致させ、各支部・独立分会が抱える課題を共有し合い、要求討議のスタートの場に位置づけ行なっています。集会には、リモートでの参加者も含めて、全損保各組織の賃金対策部を中心に友好労組である大同火災労組、損保料率機構労組の代表者28名(うちリモート5名)が参加しました。

講演の東海林智さん(毎日新聞社記者・元新聞労連委員長)
講演の東海林智さん
(毎日新聞社記者・元新聞労連委員長)

 中島本部賃対部副部長(Chubb Japan支部)の進行で始まった集会は、まず「25春闘をどうたたかうのか〜24春闘を振り返り労基研報告に抗うために〜」と題し、毎日新聞社記者・元新聞労連委員長の東海林智さんから講演を受けました。
 東海林さんは、冒頭1995年に当時の日経連の提言「新時代の日本的経営」を紹介しました。それまで終身雇用を前提に正社員の人材育成をすることでGDP世界第2位という地位を築いていた日本がバブル崩壊によって競争力が弱まったことを要因に、この提言で労働者の雇用体系を変化させたことが今の低賃金が蔓延する日本を作ったと説明しました。
 当時は正社員80%に対し非正規20%だった割合が、この提言によって2024年は正社員60%、非正規40%となり、専門的な能力を持つ人材は他社からの派遣で賄うなど、雇用体系が大きく変化したとし、「このことによって正社員と非正規の分断が生まれ、お互いが連帯できない状態をつくった」と指摘しました。そして、経営者の手腕は“人件費を削ること”となり、連合の要求も“定期昇給の維持”“雇用の維持”となったことなどから、日本の労働者の賃金は下がり続けてきたと強調しました。
 そのうえで、現在厚生労働省で議論がすすめられている労働基準法(労基法)の見直しについて説明しました。その議論では、働き方が多様化している現状にふさわしい労基法に変えるとして、労使の合意で“デロゲーション”(適用除外、逸脱)を可能にする労基法を解体する動きだと指摘しました。この動きに対して東海林さんは、「労基法は労働者が働くうえで最低基準を定めたものであり、これに違反した場合は刑罰を科す強行法規。その労基法に労使の話し合いによる“デロゲーション”を設けることは、刑事罰となる犯罪行為を加害者と被害者の合意で適用除外することであり、大変危険な動きだ」とその危険性を強調するとともに、この動きを止めるのは労働組合の役割と指摘しました。
 春闘については、2024年春闘で連合は5.1%の賃上げをかちとりバブル最盛期以来33年ぶりの高水準と発表しているが、物価上昇との関係でこの水準では足りないとし、「定昇込みの5%以上」という連合の要求に問題があるとしました。また、「要求を上回る回答」が示されたケースを紹介し、「本当に労働者の声を聞き、経営の出せるギリギリを狙った要求だったのか」と疑問を呈しました。加えて連合が要求の土台としてきた生産性3原則の中で最も重要な「公平な分配」となっていない状況を、企業の内部留保が巨額になっている一方で、労働者の実質賃金が停滞し続けていることから明らかにしました。
 また、ストライキにとりくむ意義について説明しました。ストライキの実施件数は、1974年の5,197件をピークに減り続け、近年は30件台まで落ち込み“ストなき時代”となっていること、ストライキに対してネガティブな意見が多くあることを紹介したうえで、「ストライキを打つための労力とは、まさに労働組合活動そのものである。声をかける、話し合う、要求を語りあうことを通じて理解を得て、団結を高めることにつながる。真剣にストライキと向き合えば労働組合の力は飛躍的に高まる」と強調しました。そして、社会的に注目され地元住民の応援を受けて成功させたそごう・西武労組のストライキの意義、ドイツの裁判所が「スト権を立てずにおこなう賃金交渉は『集団的な物乞いである』」と判示したことなどを紹介し、ストライキの重要性を説明しました。
 最後に、「ストライキを打てないような労働組合は経営になめられる。2025年春闘ではそのことを考えて欲しいし、団結権を見つめなおして欲しい。“デロゲーション”が語られても労働組合が強ければ対抗できる。経営の分断攻撃に対して労働組合のもとで連帯・団結して対抗すればこの国も変わるはず」と参加者に呼びかけました。
 講演後の質疑では、新自由主義的経営の問題点、人材を育成しないことで発生する歪み、非正規労働者の実態などについても認識を深めました。

提起する長塚賃対部長
提起する
長塚賃対部長


 続いて、長塚本部賃対部長(日新支部)が「2025年春闘構築に向けて、要求討議のすすめ方」を提起しました。そのなかで、実質賃金が下がり続けているなか、各支部・独立分会の努力で築いた2024年春闘の成果と到達点を確認しました。2025年春闘構築に向けては、「保険料の事前調整、保険金不正請求、情報漏洩などの問題が生じて不安が広がる中、組合員の生活は物価高騰などで厳しくなっており、賃上げへの思いは強くなっていることから、経営の厳しい出方と強い要求がぶつかり合いせめぎ合う春闘となる。後ほどの分散会ではこれまでの到達点や教訓を確認し合い、全損保統一闘争への認識一致をはかって欲しい」と積極的な討論を呼びかけました。

 その後、2班に分かれて分散会が行われました。分散会では、講演を受けての感想と全体情勢に対する意見を出し合ったうえで、各社の経営政策や職場における問題点、これまでの春闘や各種制度改定におけるとりくみなどに関し、率直に意見や悩みが出され、情報の共有がはかられました。

閉会のあいさつ:佐藤賃対部副部長
閉会のあいさつ
佐藤賃対部副部長

 分散会終了後、まとめの全体会が行われ、友好労組からあいさつを受けました。
 最後に、佐藤本部賃対部副部長(損保ジャパン支部)が閉会のあいさつに立ち、「講演を聞いて、損保においても、雇用形態が多様化したことで職場における分断が生じ、団結しづらい状況になっていることをあらためて認識できた。また、他産業における2024年春闘の成果と課題も学ぶことができた。本部賃対部提起、分散会論議では、情勢認識や職場の課題が共有され、2024年春闘の成果と課題があらためて認識されたと思う。2025年春闘に向けては、各職場の悩みや問題意識は共通しており、企業をこえて損保に働く仲間が結集できる全損保の良さも認識し合えた。一人ひとりが確信の持てる要求づくりとなるよう一致団結して頑張っていこう」と2025年春闘討議のスタートを呼びかけ賃金討論集会を閉会しました。

※東海林さんの著書「ルポ低賃金」(地平社)に講演内容に通じる労働者の実態が書かれています。ご購読をお勧めします。


講演に関する感想から
説明のあった労働者の分断について、従業員の労働組合への失望感も自身の組織で感じるところがあります。また、スト権を立てずに闘う春闘は「集団的物乞いである」という表現がとても印象的でした。内部留保が続いていた時代に、要求できるのに要求せず、応えられるのに応えてこなかった労使交渉は労働組合として考えさせられる話でした。
講演の中で涙ぐまれる場面があったと思います。東海林さんは記者だから怒りを持っていると思っていましたが、実際に見聞きされた人の実態が怒りの原動力となっていると思います。組合役員として一人ひとりの声を大切にしなければと気持ちを新たにしました。
とても勉強になりました。時間あっという間でした。日本が賃金が上がらない、上がってこなかったことの原因となった“新時代の日本的経営”のお話にとても納得しました。2025年春闘にむけてのお話も要求づくりに力になるお話でした。本も楽しみに読ませていただき勉強させていただきます。
“新時代の日本的経営”については、95年当時、全損保も「21世紀型雇用形態」の問題として、勉強会・論議したことが思い出され、この政策が今の貧困層の増大、労働組合の弱体化の起点の一つであることがあらためて認識できた。「労基研」の動きは、全く知らなかった。確認と注視が必要である。経団連に「労使自治を軸として」と言わしめるほどに労働組合が軽く見られていることは情けないことです。






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