【株主総会ドキュメント】 |
2007年度事業報告、総会提出議案の上程が終わると、隅社長は質疑開始を告げましたが、その冒頭、「事前に文書提出されている質問についてまずご回答します」と、私たちが提出した質問状について、ひととおりの回答を行いました。しかし、その回答なるものは、当方の質問の趣旨をたがえるものが多く、まともな回答と言えるものではありませんでした。そのため、団を代表して吉田委員長が挙手し、質問に立ちました。吉田委員長は「ただいまの回答は極めて不本意なものが多いので、あらためてご質問します」と述べ、概略、以下のようなやりとりを行いました。
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質問1 |
昨年度の株主総会で、石原邦夫会長(当時社長)は、「保険金不払い問題」の責任を潔く認めませんでした。118億円に及ぶ「保険料取り過ぎ」が報じられていますが、そのほとんどは石原会長が社長在任中のものです。石原会長は、日本航空社外取締役に就任するなど、「不払い問題」などなかったかのような行動が目立ちますが、会長も貴社も「保険金不払い問題」を十分に反省していない証拠ではないでしょうか。どのように責任を取るのか説明下さい。石原会長は、職を辞し、経営態勢を一新すべきと考えますが、どうお考えになるか、ご本人からも説明してください。 |
これに対し、冒頭の回答で隅社長は、石原会長の引責問題などに触れずに「質問趣旨」を説明した上、「多大なご迷惑をかけており、商品簡素化、募集網の育成など、全役員が同じ認識で再発防止に全力でとりくんでいます。現在調査中であり、役職員の処分はしかるべく検討します」と述べました。吉田委員長は、「質問の趣旨は、2005年から続いた『不払い問題』の責任をとらず、その原因を作った経営陣が居座っていることが問題ということです。石原会長の答弁を求めます」と石原会長の回答を求めました。しかし、隅社長は「私の方からお答えします」と「経営として重く受け止める。再発防止に努めることが責任の取り方だ」と、「反省と再発防止」を何度も繰り返すばかりでした。
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質問2 |
貴社は「お客様の声に関する透明性の向上」をうたっていますが、東京海上日動のホームページには、「お客様の声」の具体的な内容が開示されていません。「その他」と分類された項目は605件、対前年比で273.8%と激増していますが、ここにガバナンス、コンプライアンスに関わる重要な事例が含まれているはずです。その「声」を開示してください。 |
冒頭の回答では、担当役員が立ち、「お客様の声は全件目を通し丁寧に対応しています。ご指摘のコンプライアンスの問題については、社外委員の意見も聞き、改善を図っています。605件もの声をホームページには掲載できません」と述べました。これに対し吉田委員長は、「質問の趣旨をすりかえています。コンプライアンスの対応を伺っているのではなく、『透明性の向上』をするというので、情報開示を求めているのです。ホームページで公開せよとも言っていません。605件程度ですから、ペーパーにして株主に配布するのは容易だと重います。少なくとも質問者には提供されるべきではないでしょうか」と追及しました。これに対し回答はなく、隅社長は、「次の質問へ」と打ち切りをはかろうとしたため、「公表したらまずいことでもあるのですか」と質問しましたが、話題は次に移りました。
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質問3 |
貴社は「抜本改革」のもとで、新たなオンライン化をはかり、隅社長自ら明言するように、対応できない小規模代理店を淘汰の波にさらしています。しかし、我が国では、小規模代理店も含めて多様な募集網が損害保険を普及してきた歴史があり、効率化や業務の高度化といった尺度だけでは割り切れない部分も多く有しています。貴社は、小規模代理店からは電話の問い合わせもさせないという冷たい対応をしていると聞いていますが、その問い合わせとは、ほかならぬお客様からの問い合わせです。それもできないというのはあまりにひどくありませんか。代理店手数料体系も、小規模代理店を「ワーキングプアー」化し、生活権を奪うと言われています。小規模代理店、自社の方針についてくることができない代理店に対する、あまりに冷たい対応は改めるべきと考えますが、いかがでしょうか。 |
これに対し、隅社長は、電話対応や手数料の問題などの具体的な指摘を省いて質問の趣旨を捨象した上、担当役員が「お客様のニーズは多様化しています。すべての代理店が十分なサービスを提供できることを目指しています。規模の大小に関わらず、対応することが代理店の責務になっています。小規模代理店だから冷遇するようなことはしていません」と述べました。吉田委員長は、「電話対応させないことや、代理店手数料改訂により代理店がワーキングプアー化しているという事実をお伝えしているのです。会社は、「抜本改革」で、小規模代理店が淘汰されても仕方がないと思っているということなのでしょうか」と追及しました。これに対し担当役員が「(新代理店システムが)導入が困難な代理店には仕事が継続できるよう対応しています」と述べたあと、隅社長は「お客様に最高の品質を届けたい。代理店の大小ではありません」などとこたえ、代理店に犠牲が及んでいる事実についてはコメントを避けました。
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質問4 |
契約係従業員制度(RA制度)の廃止に関して質問します。 |
(1) |
労働CSRの遵守はグローバル企業存立の前提条件です。かつて、野村ホールディングスは、男女差別事件での東京地裁の敗訴を理由に、スウェーデンのSRI投資コンサルタント会社GES社から投資不適格とされました。雇用破壊と組合攻撃を同時に行い、司法機関から断罪されているのに解決をはからない現状は、それよりひどいものです。最悪シナリオと経済的損失をどう計算しているのか。その経営責任をどう考えているのか。説明してください。 |
(2) |
RA制度廃止の当初提案で、職種を変更して「継続雇用」となると、同じ収入を維持するには収入保険料を2倍にしなければならない異常な賃金制度を押し付けようとしました。これが、東京地裁に違法と断罪されると、それを事実上大きく変更し、「もう不利益はなくなった」と開き直りました。RA制度廃止提案が、いかに無理な提案だったかを示すものではないでしょうか。最初から現行の運用なら、会社を辞めなかったと言う当事者は大勢いますが、選択の機会の保証をされるつもりでしょうか。この事実ひとつとっても、RA制度廃止そのものを撤回し、一から再検討されるべきですが、どうするつもりでしょうか。 |
(3) |
昨今、トヨタ自動車にみられるように、自社の根幹の経営方針を、地裁判決に従って改める例が相次ぎ、その見識が評価されています。判決に逆らい、労使紛争を拡大することは、経営者としての見識・判断能力が問われます。東京高裁でも敗訴する可能性が濃厚ですが、その場合、経営責任はどのように取るつもりでしょうか。最高裁判所まで争うというのでは、あまりに異常です。判決に従って事態の解決にあたることを株主に約束してください。また、東京高裁では和解勧告が出されており、経営判断ひとつで、判決前に解決をはかることは可能です。その決断をすることこそ経営責任と考えますが、いかがでしょうか。 |
これらの質問に対し、冒頭、「係争中であり、株主総会の議題とは関係ないが、ほかの株主に理解してもらうために説明します」と断った上で、質問の趣旨を無視して、「一審では、会社の主張が一部認められたが制度廃止後の不利益があり、認められませんでした。便宜供与については、都労委で命令がありましたが、組合差別の認識はありません。」、「RAは収益管理上の差損があり改善の見通しが立たず、株主を始めとしたステークホルダーに説明がつきません。」などと、質問の趣旨を無視して、会社の主張を一方的に説明してきました。これに対し吉田委員長は「外勤社員制度廃止については東京地裁が判決を、組合差別については労働委員会が命令を出しているのです。判決、命令を守らないということについて、どう考えているのか、株主の利益の観点からも問題があるのではないか、という質問をしています」と指摘し回答を求めました。その上で、(1)の質問の趣旨を丁寧に説明し、「労働CSRの観点から株主が被る経済的損失をどう計算しているのか、あらためて説明してください」と言いました。するとまた担当役員が立ち、「RAは収益管理上差損がある。組合差別は中労委で係争中だが会社としては不当労働行為をしたという認識はありあまえん。野村ホールディングスは他社の問題。SRIというが仮定の話には答えられません」と、CSRに対する意識の欠如を露呈しました。吉田委員長は「社長にうかがいます。労働CSRは大事だと認識されているのですか」と聞くと、社長はようやく「労働CSRは大事だと認識しています」と回答。吉田委員長は「でしたら、判決を守り、労使紛争の解決を決断してください」と言うと、「係争中であり、この問題は打ち切らせていただく」と回答を避けました。
これに続き、私たちの株主代表団以外からも経営責任を追及する質問が相次ぎ、質問ごとに拍手が起こりました。次のようなものです。
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「不払い問題」があり、普通は社業に専念すべき。石原会長は社外取締役の依頼が来ても断るべきではないですか |
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RAというのは他社にもあるのですか。他社で存続できて、この会社でできないというのなら経営の問題ではないですか |
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東京海上ホールディングスに社名変更をするというが、海外子会社はすでに東京マリンの名前を使っている。海外の知名度の問題というが、5年前にミレアにしたときから分かっていた問題だ。なぜかえるのか。一体いくらかかるのか |
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合併したとき事業費率を30%以下にすると言っていたのに、悪化しているではないか |
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新聞を見ると苦情件数が断トツにひどい。これはどういうことか |
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久しぶりに総会に来たがこんなに紛糾しているとは思わなかった。かつてのジャントルマンスピリットはどこへいったのか |
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株主総会の通知にコンプライアンス行動規範がなぜ掲載されていないのか。社会で最も法令順守が求められる東京海上日動火災でこんなことでは問題だ |
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法人代理店の従業員だが、政策を進めるときは代理店の意見も聞いてほしい。安心マップは、代理店の実情に合わない |
これに対し、隅社長はじめ経営陣はまともに答えられないことが多く、総会は紛糾しました。
ここで代表団から大田決さんが発言しました。質問は以下のとおりです。
「昨年、東京海上日動の常識は世間の非常識だ。あらためようと従業員に話されたそうだが、この総会の説明を聞いても、まだ非常識のままであるのではないかと感じます。『不払い』『取り過ぎ』は大したことと思っていないように聞こえる。金だけ持っていって払わない。役所に届けているのに、そのとおりに払わないというのだから無茶苦茶な問題ではないですか。船場吉兆の真似などしないようにしてほしい。そのつどごめんなさい、再発防止に努めますというが、おかしいと思わないのですか。経営者が責任をとるときには辞めるというのがあるが、一体、どういうことがおきたら責任を取って辞めるというのですか。」、「ミレアから東京海上に名前を改めるといいますが、5年前に誰がなんと言って決めたのですか。5年たって間違っていたというなら、その責任を取らないでいいのですか。RAについても、合併するときにはいろいろと検討をして存続すると決めていました。これを合併して1年で廃止する。誰がどこで残すと判断し、だれがどこでやめると判断したのか。最初の判断を改めるなら責任を取るべきでありませんか。御社は、過去にも労使紛争を抱えてきたが、これまでは高裁判決にまで持ち込んで最高裁まで争うなどということはありませんでした。しかし、今は、そんなこともやるんじゃないかと心配になります。裁判所も、そうならないように、心配して和解勧告をし、慎重に検討して、名誉ある撤退を促しているのではないでしょうか。いったいどうするつもりですか」と質問しました。
これに対し、隅社長は、「『不払い、取り過ぎ問題』の責任は重く受け止める。東京海上への社名変更は、5年前と諸般の事情が変わり、ブランド戦略。RA問題については労使協議の問題であり、係争中」などとしか答えられませんでした。
その後、隅社長は代表団が何人も挙手しているのに、それを無視した挙句、「あと1人」と述べたため、会場から「とんでもない」「まだたくさん挙手しているではないか」と怒号が飛びました。不当にも、代表団の発言は1人に押さえ込みましたが、発言した浅川さんは次のように毅然と質問し、総会会場の共感を呼びました。
「社長は労使協議中などといいますが、隅社長が私たちの団体交渉に出席して話をしてくれれば、このような場で発言しません。一方の労組の労使交渉には出席され、私たちの交渉には社長おろか経営陣の方は誰も出席しない。そういうことも含めて都労委は差別をあらためなさいと命令を出したのではないですか。私たちはこの場しか、隅さんと面と向かって話しを機会がないのです。
その都労委命令では、謝罪文の交付と、私たちの組合から奪った200万円の返還も命じられています。まだ返してもらっていません。これでは泥棒といわれてもしかたがないのではありませんか。早く200万円返してください。
裁判について言えば、地裁に提訴し勝利判決を勝ちとらなければ、私は間違いなく昨年7月に社外に放り出されていました。生活をかけてたたかっているのです。判決を無視するほど制度廃止に自信があるなら、また三審制だから最高裁だというのなら、せめて負けたら誰がどう責任を取るか、経営者としてはっきり言ってください。
昨年、石原さんは「会社の常識、社会の非常識」と言って社員に猛省を促しました。しかし、会社の判例や命令を守らない出方を見ていると、一番この言葉を胸に手をあてて受け取らなければならないのは経営者だと思います。判例や法令に依拠して仕事をしている損害保険会社として、一日も早く、この労使問題を解決してください。」
これに隅社長はまともに答えられませんでした。そして、まだ、挙手する参加者が何人もおり、発言を求めているのに、怒号の中、審議を一方的に打ち切りました。議案採決も怒号の中で行われましたが、特に、役員選任に関する第3号については、拍手は少なく、「反対の拍手も確認せよ」の声があがるほどでした。
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