スコープNIU

2008年12月6日 全損保学習会
村上剛志さん 講演
最後に
「高い安全衛生基準と事業成績は手を携えて進む」と世界が宣言
 最初にお話ししましたが、労働者が働いて、生活をしていく基盤はなんといっても健康です。安全と健康は一人ひとりが生きていく基本条件です。そして、今の社会にとっては、安全と健康が守られるということは、民主主義の根幹です。社会にとっても、事業体にとっても、行政にとっても根幹です。一人ひとりが尊重される人間尊重の民主主義社会では、安全と健康を守らなくていいとは誰も言えません。
 2008年6月に、世界の労働安全衛生会議が開かれました。「労働安全衛生サミット」ということで、労働安全衛生ソウル宣言が出されました(資料12)。先ほどのILO187号条約を受けて、この宣言が出され、日本も参加して採択されたわけです。そこでは、「使用者は以下を確保すべきこと。職場における高い安全衛生基準と良好な事業成績は手を携えて進むものであるため、予防を企業活動の一体的な部分とすること」が宣言されました。事業活動にとって、業績をあげることと労働者の安全衛生を守ることは「手を携えて進むもの」ということが世界で確認されたのです。ソウル宣言では、「職場における労働者の安全と健康に係わるあらゆる方策について、労働者及び労働者代表と協 議し、これらの者に訓練を提供し、情報を伝え、関与させること」など、労働者の代表と話し合って、安全と健康を守ることを世界として宣言をしました。これを、使用者がやらなければならないということになったんですね。そのような情勢が世界的に生まれてきているということです。

経営を滅ぼし、日本を滅ぼし、労働者を滅ぼした新自由主義
 メンタルヘルスの問題は、熱病のような新自由主義思想が横行し、成果主義が蔓延する中で、その悪化が顕著に現れてきました。いま、その破綻はっきりしたわけですから、新自由主義が、経営を滅ぼし、日本を滅ぼし、労働者を滅ぼしているということを、声を大にしていっておきたいと思います。いまこそ、労働組合が安全、安心、連帯、連携の中心になることが必要だと思います。

笑いが病気を治す そして勉強と交流を
 もう1つ追加したいのは「笑いが病気を治す」ということです。これは実験がありまして、講談社α新書で村上和雄さんという筑波大学の名誉教授が「生命のバカ力」という本を書いております。
 筑波大学の医学部でこういう実験をしたのですね。
 糖尿病の患者さんを集めて、講義を聴かせて、そのあとに血糖値を測った。そうしたら専門的な授業だったから、緊張して血糖値が上がった。次の日に漫才師のB&Bをよんで漫才をやらせたら、みんな笑い転げて血糖値が下がってしまった。世界の医学雑誌では、笑いが病気を治すということが証明されていると言っています。ですから笑うという場をつくることが病気を治すことになるのです。井上ひさしさんは、人間は生まれた時からどうしても身体の中には笑わないような力が働いてしまう。だから外から笑わせる力がないと笑わないと言っています。職場でも組合でも大いに笑えるような場所をつくることが、過重労働とストレスを改善していく一つの解決の糸口になっていくと思いますので、それを強調しておきたいと思います。
 そして、何より命と健康を守るためには、今までの自分の人生の経験だけじゃなくて、勉強することが何より大事です。そして、その勉強を通じて交流することがぜひとも必要です。これから全損保の中で、安全衛生活動をやったり、安全衛生委員会を開催したら、必ず1年ごとに経験を交流し合って、どうしたらいいかということをやっていったら、今日を機会にみなさんと仲間の健康が改善されていくことになると思います。
 少し時間が超過しましたけれども、ご清聴ありがとうございました。





質問  職場に2年前くらいに衛生委員会が会社主導でできました。私は少数組合の委員長をやっていますが、まったくこういうこととは思わずに、職場から1名ずつ衛生委員を選びなさいという話しがあったので、私ではない人が選ばれています。私が今日の話しを聞いて、衛生委員になりたいと思ったら、どういうことをすればよいでしょうか。

村上  少数の方からも当然意見を言う機会をもたせるべきだということで、立候補し委員になっていくことができます。例えばある県の教職員組合では、全日本教職員組合の方が過半数ですが、日教組や、組合に入っていない人の枠をつくって、6人なら6人の労働者側の委員を構成しています。また、さっき言ったように「ソウル宣言」などでは、労働者と協議をするとなっています。安全衛生は、職場の労働者の意見を反映して安全と健康を守るという職場づくりをしなければいけないというのが基本ですから、少数組合の人でも入るということが必要ですね。会社に申し入れることが必要ですし、もし除外するということであれば、監督署に対して、少数組合を入れないというのはけしからん、会社を指導してくださいという申請ができます。

質問  今日はありがとうございました。衛生委員会は、実際には、ほとんど開かれないという場合が多いのですが、会社に対して、行政からの指導とか教育というのはどういう形でやられているのか。それともやられていないのか、その辺りを教えていただけますか。

村上  最近の例で言いますと、民間テレビ会社は事業所が港区に全部集中しているので、三田労働基準監督署が、安全衛生法が適用されているかどうかチェックしたのです。そうしたら98%が違反をしているということで、三田労働基準監督署が事業者を全部集めて、労働安全衛生の協議会をつくれと指導しました。特に民放は、台風の取材をするとか、ヘリコプターが落ちるとか、怪我することが多いのです。だから、民放だけの安全協議会をつくりなさいと指導をして、今、やっている最中です。ですから監督署に、安全衛生委員会を全然やっていないと申告すれば、是正指導されるはずです。
 産業医は月1回職場を巡視して、事業者に報告をして、指導するということになっていますし、もちろん衛生管理者も週1回職場を巡視してそこで気がついた問題を安全衛生委員会で指摘をして改善させるという任務がありますから、そういう、やっていないことを全部点検して労基署に是正するように申告をすれば直ちに会社に指導が入ります。特に、今は、長時間労働やメンタルヘルスの問題で、厚労省は曲がりなりにも改善していこうということになっていますし、安全と衛生については絶対的にやらなければならない責務がありますからね。放置できないと思いますし、世界もそのように動いていますから。
 組合の方でもちゃんと準備することが必要です。安全衛生委員会ってどういうことだとか、安全衛生管理体制とはどういうことだとか。組織と役割と任務を一応勉強して、それから打って出る準備をしていく必要があります。生半可なことだけで監督署に行くよりはちゃんと準備していくことが大切です。それで申告すれば一挙に片付いていきます。そして会社も絶対にやらなければならないのです。法律で定められていますから。
 今、CSRとかコンプライアンスとか言っていますが、その基本中の基本が労働安全衛生ですから、組合がこれを活用して今の情勢を変えていこうということになっていけば、一挙に情勢が変わります。そのためには学習と準備が必要ということです。教職員組合は、学習して、職場が打てば響くような状態になって、これでいこうじゃないかということですすんできているのですね。
 ちょっとだけ補足をすると、全教と都教組と都障教組が教員の地位に関するILOユネスコ勧告をもとに、いまの「不適格教員」の問題をもたらす人事評価制度は違反するということで6年前に申し入れ、本当に地道に積み上げていって、文部科学省を追い込んで、今年4月にILOユネスコの調査団が来日して、ヒアリング等をきちんとやって、12月に画期的な是正勧告を出したんですね。そういった活動も一方では起きていますから、ぜひ確信を持ってやっていただきたいですね。





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