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4・18シンポジウム この職場から 日本の安心安全は守れるのか ディスカッション B
絶望の時代か、明日が変えられる時代か

西田)  ありがとうございました。いろいろとお話を聞いていると、規制緩和で労働者にしわ寄せがいき、その実感を持たざるを得ない状況になっている。そこに、安心や安全といった最も大事なことが奪われている。それが、いろんな産業でおこっていることが明らかになったのではないかと思います。その出来事の大変さは誰もが痛感させられるところで、このような道をこのまますすんでは到底うまくいくはずがないと、お話を聞けば、これも、みんながそう思う。しかし、同時に、この路線は変えられるのか。ダメなのじゃないかと、何となく思ってしまうのではないかと思います。
 本日のディスカッションの大事なポイントにもなってきますが、じゃあこの時代をどう見るのか。絶望の時代なのか、それとも明日が変えられる時代なのか。絶望ならば仕方がないということなのでしょうが、明日が変えられるという時代ならば、そうする道はどこにあるのか。こうした点も含めてみなさんにお話を頂きたいと思います。
 続けてになりますが、桑田委員長、お願いできますでしょうか。

■前に進んでいくと、世界では「無くせ貧困」と「働いたら安心して暮らせる」が叫ばれている
桑田)  大変絶望的な話をもう一つしたいと思うんのですが、食がこんなに豊かなことはそう長くは続かないという話は、そろそろみなさんもご存知だと思うのです。小麦も含めて世界中に余っていて、日本が札束で叩いて自由に買ってくる状況ではもうありません。その上で自給率が低い−自分の国でつくっているのがごくわずかということは、もう暮らしていけないということです。ですからだんだん、「自給率を上げていこう」「安全なものを」という世論が高まっています。やっと落ち着いてこういう状況になってきたのかな、ということで私たちは希望をもっています。  そうしたときに労働組合としての役割が非常に大事になってきています。人が暮らすという意味、大事さ、その中で我慢することは我慢する。目先の利便性によった浮き草のような暮らしじゃなくて、落ち着いた暮らしをしたいというような価値観が大事だという考えも、いま増えてきているように思います。
 生協労連としては、ディーセントワークという言葉と、男女共同参画という言葉を大切にしています。パートが8割もいるような労働組合で、そんな偉そうなことをと思われるかも知れないですが、いまパートといっても女性ばかりじゃなくて「パートくん」もたくさん増えています。低賃金で働いているということで厳しいのですが、その非正規の労働者を組織してパート春闘、最賃闘争をやっています。いま日本の労働運動もそこを組織していく、その人たちを中心とした労働運動を通じて、この日本の異常な状態を正常化していく運動が大いに盛り上がってきていると思います。私も、もっともっと盛り上がっていく先頭に立ちたいと思っていますが、いまの若い人の間にも、どんどん労働組合が必要なんだというところが醸成されてきているんじゃないかな、と思います。先生の方から、「もうひとつの日本」を考えていこうという趣旨のお話がありましたが、そういう意味では現状をネガティブにばかりみるのではなくて、前にすすんでいったときに、世界では、ディーセントワーク、つまり、ILOが言っているように、働いたら安心して暮らせる、働くってことはとてもうれしいこと、楽しいことなんだ。そこには価値があるし、自分の尊厳を守っていくことなんだと、叫んでいます。「なくせ貧困」の言葉と一緒にです。そのことが世界の流れだということを頭に置きながら、労働運動もやっていきたいし、生協運動も改革していきたいと考えています。

西田)  ありがとうございました。続いて山口議長、お願いできますか。

■職務的な自尊心が安全を守る−労働条件と安全の関係には科学的な根拠がある
山口)  安全の問題を、労働という面からとらえると、直接そこに携わっている労働者が、安全に直接関わるということで非常に重要だと思います。職務的な自尊心が安心を守ると言われているのですね。社会心理学の岡本浩一先生が消防士を対象にした研究では、意欲とパフォーマンスの状態が良いとエラー率が下がるという結果があります。日常的には航空機に接しているのですが、自分がすばらしい仕事をしているんだという意識をもっていることが、仕事に対する注意力を発揮させエラーがなくなる、パフォーマンスが上がるということを言われているのです。そういう意味では、今、パート労働者の話なども出ましたけれど、やはり働く人の労働条件というのは安全にも非常に影響するという点では、こういう社会心理学の研究なども踏まえて科学的な根拠をもって主張し、社会的に訴えていく必要があるんじゃないかなと思います。

西田)  ありがとうございます。続けて吉田委員長お願いします。

■絶望の時代ではない−本当のことがわかり、変化を実感できる時代
吉田)  今日1日、金融共闘で行動をしてきたのですが、弁士の方々が「潮目が変わった」とか、「変化があるから、それをつかめば展望がひらける」、そういうことを口々に語る一日でした。
 確かにそうです。例えば、名古屋高裁で自衛隊のイラク派遣が違憲だという判決が出てしまった。こんな判決が本当に出るのかと思ってしまうのだけど、出ちゃうわけですね。やはり今、そういう時代になっている。本当のことがわかっちゃう時代です。インターネットの発達による情報革命もあいまって、人々の側がそういった力をもつようになったということも背景にあると思いますが、本当のことが明らかにされてしまう時代なわけです。例えば今日、金融庁に要請にいきました。昔は「金融庁は労働者の問題は管轄外ですから」という答えしか返ってこなかったのですが、今日は違ってこう言うのです。「合併をするような場合、お互いの会社の労働者の人たちがわだかまりないようにしなきゃいけない、という話はしますけど、そんな『労働組合をどうしろ』ということなんか言いませんよ」と。言っちゃっているわけですね。労働者のことについて金融庁がそういう会話をしているということを。ばらしちゃっているわけです。もちろん、それはわかっていたことですが、「やっていません」という建前でやっていたことが、もうもたなくなっている。そういう時代だと思うのです。
 そういうことでいうとやっぱり潮目が変わっていることを実感します。あまりにひどいことがどんどん起こって、本当のことがわかって、国民みんなが怒って、ということがいろんな形でどんどん出てくる。昨年の参議院選挙の例を引くまでもなく、いろんな形で、自分たちが「おかしいな」と思って声をあげれば政治でも経済でも転換をしていくんではないかと、実感ができる時代ではあると思います。
 ただ、もう一方でいうと、だからこそなんですが、「構造改革」をやろうという人たちもまだまだ元気です。ただ、やろうとしたことを、ものすごくえげつなくやるしかありませんので、そういうことをやることがどんなことかということがすぐにわかって、「おかしいじゃないか」という人々がいる。そこにせめぎあいが生まれている。
 だから、このせめぎあいがどうなるかによって絶望の時代にも、展望の時代にもなっていく、そこのところまで今の時代は来ていると思うのです。やっぱり、「おかしいな」と思う人間が声をあげて力をあわせるということを鍵にして、明日が、良い明日に変わっていくことが今の時代の特徴だと思います。ですから、決して絶望の時代ではなくて、明日が変わる時代だということです。そのようなせめぎあいがあるということは、どういう分野にも当てはまると思いますので、生協にしても、飛行機にしても、損保にしても、あるいは社会にしても、この国にしても、いろんなことが今のせめぎあいの渦中の中で変化をしていく可能性は持つではないか。ですからそこに展望を語ることはできるではないか。その鍵は、声をあげることのできる人たちが、そこにいるかどうかではないか。だから、その人たちを守る労働組合は、大きな役割を果たせるのではないかと思います。絶望の時代ではないというのが、私の見解です。

西田)  ありがとうございました。それでは山家先生からもお願いできますでしょうか。

■「もう一つの日本へ」展望はひらけつつある
山家)  絶望の時代かという問いかけがありましたけれども、私は展望はあると思っています。 図表31 では「もうひとつの日本へ展望がひらけつつある」と書いたのですが、この10年間の日本の「改革」の流れと異なる、そうではない日本にむけて展望はあるという見方です。

◆世界的に見れば新自由主義の見直しがはじまっている
 一つは、日本に先駆けて新自由主義的政策をとったイギリスやニュージーランドで見直しが行われています。イギリスはブレア政権以来、サッチャーのいろんな政策を取り止めたり、逆方向を向いたりということをやっています。日本では今、これから市場化テストという事で政府の仕事を民間に譲り渡していこうという動きが始まったばかりですが、実はサッチャーさんがそれを20年間前に始めて、ブレアになってみたら、いろいろまずいことがあるから廃止するという動きがあったりします。日本はそれを今やるというのですが、外はもう変わっている。アメリカも今年の大統領選で、クリントンさんにしろ、オバマさんにしろ、変わる可能性が出てきていると思うのです。
 それから大きく変わっているのは中南米諸国です。これらの国々は、今日はお話しませんでしたが、アメリカとかIMFから新自由主義的政策を押し付けられて大変苦労した国々でしたが、ここ3〜4年来、ほとんどの国で政策の流れが変わっています。

◆日本でも矛盾が顕在化
 実は去年の今頃こういう場でお話したときは、「そういうことがあるから日本も」と言いながら、日本はあまり楽観できなかったのですが、去年の参議院選挙を見ますと日本もだんだん変わるのかなと希望がもてるようになりました。やはり去年の参議院選挙で、安倍さんの自公が負けたことについては、いろんな背景があったのでしょうが、やはり新自由主義的政策、「構造改革」の矛盾がいろんな角度で現れてきた。特に地方に顕著に現れてきて、それが反対票になったというふうに理解していいと思います。その流れが続くかどうかということです。
 さっき吉田さんがおっしゃいましたが、例えば「株が下がったのは福田さんが改革に熱心ではないからだ」とかいろんな格好で、竹中さんなどかつての「構造改革」派、あるいは日経新聞を始めマスコミが「改革」を続けなければならないと、巻き返しが盛んでありまして、そこでのせめぎあいの過程にあると思いますが、そこで展望が見えてきたという感じもします。

◆総資本としても「ヤバイ」状況が生まれている
 それからもう1つ、やはり重視してもいいのは個別の資本としてはともかく、全体としては「ヤバイ」状況が今生まれてきているということです。このままで行ったら、自分たち全体としてはまずいのではないかという状況が生まれていると思います。
 一つは、ここのところ景気があやしくなってきていますが、景気回復が6年、7年と続いているにもかかわらず、消費が一向に増えない。だから景気が一向に本格的には良くならないということがあります。それはなぜかといいますと、企業が賃上げを抑えている、あるいは正規の職員を非正規に変えて安い賃金しか払っていない。個人の所得は増えませんから、当然消費は増えない。消費が増えないと企業の売り上げも増えない。特に流通関係は、大変に厳しい状況にあるわけです。そういうことでちょっと見直したほうがいいのではないか、個々の企業はしんどくても賃上げをしたほうが消費に跳ね返って日本経済全体が良くなるという見方もでてきています。
 二つ目には、日本企業の強みであった、働く人が一生懸命働いて作り出す製品の質の高さが守られてきた、その蓄積が、派遣とかパートとか非正規の人に頼ることによってなくなってしまい、だんだん企業自身の強みが失われてきている。そういうおそれも出てきています。
 それから社会的不安が増えてきているということもありますし、政府が一番問題にしている少子化も、政府ははっきり言わないですが、基本的には働く人の、特に若い人の条件がめちゃくちゃであることが原因です。ろくな給料ももらえなくて、結婚なんてできないし子どもも産めない。しかも将来の見通しが全く立たない。こういう状況が一番、少子化の根源です。この辺も変えなきゃいけないということがあるかと思います。

◆キーになるのは現場のたたかい
 そういう状況の中でどうするかということですが、やはり一番キーになるのは現場のたたかい、特に労働組合、個人個人もそうですが、労働組合のたたかいでいろんな問題提起をしていく、異議申し立てをしていく、あるいは訴えをしていく。それが社会的な共感の基盤になると思うのです。いま3つの業界のお話をうかがいましたが、お互いに理解をしあってものを言いあう。だからどこかの業界でどこかの組合が訴えれば、他の組合も「そうだそうだ」と同意ができる。そして社会的な共感が生まれていって、政治を変えていく力になるのではないでしょうか。
 そうなればもうひとつ違う社会に向かって歩き出す可能性はできていると、そういうふうに思っております。




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