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4・18シンポジウム この職場から 日本の安心安全は守れるのか パネリスト報告 @
西田)  それでは早速パネルディスカッションを始めます。本日のテーマは、「この職場から日本の安心・安全を守れるか」ということです。食品の偽装や毒物混入、航空・交通のトラブル、そして保険金不払い・取り過ぎ問題。ここ数年社会的役割を担うべき産業・職場から人々の安心・安全を脅かす事件・不祥事が多発をしています。どうやらこれは産業の個別の問題としてはすまされない共通の問題があるのではないか。そういった問題意識から根底にある共通の問題を大いに論議をし、掘り下げていただきたいと考えています。そして私たち働くものが、労働組合が、何ができるのか、どうあらねばならないのか、答を見つけていきたいと思っています。それではまず航空労連の山口議長、よろしくお願いします。

山口宏弥さん 競争促進で、空の安全は
どうなっているのか


航空労組連議長 山口宏弥さん
山口)  みなさん、こんばんは。航空労組連の議長の山口です。飛んでいるときは機長で、地上では議長と(会場笑い)両方やっているわけですが、今日は航空の安全の話を聞いて「もう飛行機には乗りたくない」と思われるかもしれませんが、そうならないために労働組合があるわけですからぜひ安心して聞いていただきたいと思います。
 空の安全が脅かされているという点で、私たちは2つの点でとりくんでいます。1つは規制緩和の問題で、もう1つは民間航空の軍事利用の問題です。今日は規制緩和をめぐっての私たち航空連のとりくみの報告をさせていただきます。
 1978年、アメリカのカーター政権の時代に、航空の規制緩和が始まったわけです。当時のアメリカの労働組合は、これを歓迎するという状況がありました。日本では1985年に始まりました。当時、運輸政策審議会がそれまで半官半民であった日本航空の民営化を打ち出し、90年代に入ると競争促進策がどんどん進められたわけです。今日は、どのような規制緩和がおこなわれてきたかを、パイロット、客室乗務員、整備部門、グランドハンドリングの職種ごとにみていきます。

■パイロット
◆交代なし12時間のフライトで乗務中断者が激増
 これは、パイロットの乗務時間の制限のグラフです( 図表1 )。「12」とあるのは、交代なしでパイロットが12時間のフライトをするということを意味しています。92年までは、航空法で1回の着陸で10時間を越えれば交代要員が乗せるということでしたが、規制緩和で12時間まで、2時間も延ばしてしまいました。それを理由に日本航空では、労使間協定を破棄し、社内の規定を変更して、それまで9時間で乗員交代をしていたものを11時間まで延ばしました。東京からモスクワやロサンゼルスまで乗員交代なしで飛行するという状況が生まれてきたわけです。アメリカの航空法では交代なしの継続乗務時間は8時間と規定されています。
 この結果、どういうことが起こったかと言いますと、 図表2−1 は、飛行機の乗務ができない(航空身体検査基準に一時的にも不適合となり乗務不可能)運航乗員の人数を示しているのですが、特に日本航空の場合は、フライト全体の4分の3が国際線ということもあって、これまでは、約2,500名の運航乗員のうち、毎月約80人が身体検査で不適格となり乗務ができないという状況でした。ところが93年に、規制緩和を受けて「勤務基準の改悪」がありました。一方で乗員不足から身体検査の基準が緩和されたのですが、疲労が蓄積していくなかで、2001年以降には100名を越え、現在でも140名〜150名のパイロットやフライトエンジニアが乗務できないという状況が続いています。一般の健康診断と違いまして、航空身体検査という事で厳しい面がありますが、それにしても特に日本航空の場合には規制緩和とリンクして乗員の健康状況が悪化しました。 図表2−2 は全日空の乗務中断者の推移ですが、こちらは当時、国内線が中心でしたので、2003年の時点ではあまり影響が出てきていないと言えると思います。

◆実機訓練なしで、お客を乗せて初めてのフライト
 乗員の規制緩和で一番大きな問題は、実機訓練をやめて、全部シミュレーターにしようという流れですね。特に訓練時間はどんどん短縮されています。例えば私は、ボーイング747で機長になって、MD11という飛行機に移ったときは、実機の訓練で離着陸を大体20〜30回くらいやってから路線訓練に入ったのですが、3年前にB777に移ったときには、実記での訓練はなく、シミュレーターだけの訓練でした。シミュレーター技術の進化を理由に、実機はやらなくていいことを国が認めたからです。訓練費用もシミュレーターの場合は、実機の20分の1くらいの費用で済むからです。初めて旅客を乗せ定期便を操縦したときには、非常に不安な気持ちで操縦をしました。また、パイロットの場合は路線資格取得も緩和されました。これまでは、ロンドンならロンドン、パリならパリということで、空港ごとに資格試験を受けたのですが、規制緩和で、ロンドンの試験に合格すれば、パリや他のヨーロッパ路線は学科教育だけで資格がとれるようになりました。従来なら、路線のオブザーブなど研修をしてから乗務したわけですけれど、今ではビデオとか写真を見て飛ぶというように緩和されています。このような規制緩和は、パイロット個々人への大きな負担となっています。

■整備部門
◆朝の点検だけで飛行機が飛ぶ
 図表3 は、1960年から2006年までの航空旅客者の推移を示しています。現在、国内線では1億人近い人が航空機を利用しています。国際線でも日本の離発着で5000万人くらいが利用しています。整備問題で、まず私たちが問題にしているのは、かつては整備部門は点検整備とは別だったものを、規制緩和で「実際に整備をした人間が、自分の整備した結果の点検もする」というように一人で二役の基準に変えてしまったことです。
 また、朝札幌に行って羽田に帰ってきて、次に福岡に飛ぶという時、つまり飛行間点検についても、かつては2名で作業を行っていたわけですけれども、現在は1名で良いということになりました。今度は、それがもっと進み、ボーイング787という新機種では、朝の初便で整備士が点検をすれば、あとは1日中点検をしなくてもいいという制度です。整備士の目とパイロットの目は全く視点が違うのですが、後はパイロットが見て飛んでくださいということです。事故が多発しているボンバルディアは、いち早く整備士の飛行間点検を省略した飛行機です。これは、メーカーが飛行間点検をしなくていいということをセールスポイントにしていることも大きな問題です。

◆トラブルを生む整備の海外委託化
 現在整備で一番大きな問題は、 図表4−1 図表4−2 にある海外委託整備です。日本航空や全日空といった航空会社本体が自社機の整備を全部やらないわけです。特に重整備、オーバーホールを海外でやっているわけです。グラフには細かくは出ていませんが、日本航空のドック整備、重整備の半分は中国やシンガポールで行われています。全日空も半分は海外で整備をしています。
 この結果、例えば1996年に日本航空の整備士は4500人いましたが、10年後の2006年には2900人と、35%減らされている。全日空では1996年に3600人いた整備士が今は2700人、25%減らされている。そして、この一覧表( 図表5−1 図表5−2 )のとおり、中国での整備で、大変なトラブルがでているわけです。これは日本航空の例ですが、中国で整備をしてきたジャンボ機が試験飛行をすると、使った燃料と残った燃料の計算が合わないのです。例えば、10万リットル積んだところを5万リットル使ったのに、7万リットル残っているという表示が出るわけです。そんなに燃費が良くなったのかと思いましたら、実はタンクを開けてみたら整備のマニュアル―コピーが12枚、タンクのセンサーに絡まっていたのです。どういうことかといいますと、全くの素人がマニュアルだけを頼って整備をして、最後に、このマニュアルに「マニュアルをこの位置に戻す」と書いてあれば戻したのでしょうけれども、置き忘れてしまったわけです。そういった信じられないトラブルが起きているわけです。こんなことはいままでは考えられませんでした。
 もう1つ海外整備の例を挙げますと、貨物室に消火液が出るノズルがあるわけですが、直接、貨物に消化液があたるようなノズルになっているのに、ノズルの上にパネルを張ってしまった。つまり噴射する出口を塞いでしまったわけです。このノズルが何の役割を果たしているかという教育ですらできていないわけです。教育の問題もそうですが、資格がない、大量の低賃金労働者で整備を行っているために、こういったトラブルが出ているというのが最近の特徴です。

◆客室乗務員―蓄積された経験引き継げない「契約社員」化
 客室乗務員については、乗務員の数を減らしていくというのが流れになっています。94年に亀井運輸大臣(当時)が一喝したというエピソードがありましたが、アルバイトスチュワーデスの問題が社会問題となりました。その当時、正社員でない客室乗務員をどんどん入れてきたわけですね。労働組合が頑張り、3年たてば正社員にするという制度ができたわけです。 図表6 を見ていただくと、JALでは、3年たったら正社員ということですから、契約社員が10%です。全日空では、客室乗務員の労働組合活動がかなり後退しているために、35%が契約社員です。全日空に乗りますと客室乗務員3人のうち1人は必ず契約社員ということです。その平均勤続年数は5.6年です。日本航空は12.5年ですから、全日空は入れ替わりが激しく、JALの半分の勤続年数で辞めているような状況です。これが、北海道国際航空(AIR DO)とかスカイネットアジアなどになると、7割が3年以内の契約社員です。飛行機に乗りますと、経験の蓄積でしかわからないことを先輩から教わることが非常に多いわけですけれども、ほとんどが3年くらいで辞めてしまう。そういった状況が進んでいるわけです。 図表7 はアメリカの客室乗務員の平均的な経験年数と年齢のグラフですが、アメリカの場合には契約制度がありませんので、非常にきれいな年齢構成ができています。

◆グランドハンドリング―2日に1回は事故が発生
 グランドハンドリングというのは、貨物の搭載やトーイングという飛行機の牽引、カウンター業務などを行う職種です。日本航空グループでいいますと約7,000人います。ところが、2005年には633人、2006年には584人、2007年には798人を採用しているのですが、全体の数は増えていません。毎年1割近い人が辞めて、入れ替わっているという状況です。 図表8 の右下にありますのが、グランドハンドリングの事故やトラブルの件数です。みていただくと分かると思いますが、2日に1回くらい、飛行機にぶつけたとか、車両同士がぶつかったとか、手をはさんだとか事故が報告されています。

■それでも進められる規制緩和
 今、こういう状況に陥っているにもかかわらず、昨年政権を放り出した安倍首相は、6月22日に「航空会社の競争力向上のための環境整備」として「規制改革推進のための3ヵ年計画」を閣議決定しました( 図表9 )。その内容は次のようなことです。ひとつには、パイロット、機材、整備士については、アメリカのライセンスがあれば、自動的に日本に飛べるようにしたいということで、今その立法化がすすめられています。次に、パイロット、客室乗務員は同一会社でなくても良いということにする。パイロットはアメリカ人、客室乗務員はフィリピン人で良い。整備はすでに進んでいるように中国人でもできる。このようなシステムを採り入れようということです。今まではパイロットと客室乗務員は同じ会社でなければならないといった規定があったのですが、それを取っ払って、3月31日にその規定をなくし、パイロットと客室乗務員が別会社でも飛べるようにするという指針を出しました。3番目には、在留資格の緩和ということですが、要するに日本の航空の労働市場を外国に明け渡すというようなことを進めようとしているわけです。私たちは、これに強く反対をしております。

■規制緩和の問題にとりくみ、連帯する日米の航空労働者
 この 集合写真 をご覧ください。アメリカのIAM、国際機械工・航空宇宙産業労働組合―60万人くらいの組織で、18万人の航空の従事者ですが、その航空部門の副会長がアメリカの上院の委員会で証言しました。アメリカでも規制緩和で航空機のトラブルが非常に多いのです。アメリカでもこの5年間のうちに30%〜60%、海外での重整備が行われている。その結果、逆噴射装置を逆に取り付けたり、操縦のためのコントロールケーブルを逆につけるようなトラブルが発生しています。IAM会長は私たちに、「規制緩和とは、安全と雇用の破壊だ。アメリカでは、中国製の玩具の飛行機は、塗料の問題で赤ちゃんに非常に有害だ、と連日マスコミで報道しています。ところが人間の乗る飛行の整備が中国やその他の中南米で行われても、まったくそれは報道されない。企業側がそういう報道を抑えている、スポンサーが強いのだ」ということを言っていました。規制緩和の問題は日本だけでなく、アメリカの労働者も同じですね。私たちと同じような課題にとりくんでいるようです。昨年12月に訪問したのですが、情報交換をしながらこの問題をとりくんでいるというのが現在の状況です。




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