【談話】
あいつぐ「行政処分」と 損保産業の現状について |
「保険金不払い問題」での損保26社に対する業務改善命令に続き、損保ジャパン社、三井住友社に厳しい業務停止命令も下され、社会的な問題となっています。このかつてない事態をどうみるか、産業民主対策部が分析をまとめ、談話を発表しました。
表面化している問題をどうみるか
「保険金不払い問題」は、約款通りに保険金を支払うという、損保産業のもっとも基本的機能が傷を負っていることを明らかにした痛恨事です。損保ジャパン社や三井住友社への行政処分では、保険金の支払い漏れ、生命保険の自腹契約、印鑑の大量保有、第三分野保険の不適切な処理、代理店での保険料立替など広範な問題とともに、それらを生んだ営業偏重の経営姿勢や、保険商品の販売にあたっての内部管理態勢の不備が厳しく指弾されています。いずれも同根の問題であり、損保「自由化」が生んだ「歪み」が補償機能の発揮という損保産業の社会的役割を傷つけるまでに至った現実を示すものです。
競争激化の根本にある「自由化」
これらの問題は、「他社対抗」の号令のもとで進んだ消費者不在の商品乱開発・乱売競争とシェアの奪い合い、ヒト・モノ・カネ全面にわたる際限のない「合理化」競争など、損害産業の社会的役割と無縁な競争激化がもたらしたものです。そして、この根本に、1998年の損保「自由化」以降の全面的な規制緩和があることは論をまちません。私たちは、その以前から、「自由化」が損保産業の秩序を破壊し、不公正過当競争や行き過ぎた「合理化」効率化によって、保険契約者・被害者へのサービス低下をもたらし、結果として損保産業の社会的役割の破壊につながると警鐘を打ち鳴らしてきました。そして、「自由化」直後から、職場の実態や声を明らかにし、『全損保緊急要求』運動などを通じて、金融行政、損保経営者に競争激化がもたらす「歪み」をただすよう強く求めてきました。 しかし、聞く耳は持たれず、行政は「自由化」を加速し、経営は血眼の競争に明け暮れてきたのです。このもとで、損保産業は、共通の問題に対処する自浄力も失われ、ただ、個別企業が力をぶつけあう、社会的役割と無縁な産業になりかけています。ここに、金融行政がいくら事後チェック=処罰ありきで対処しても、「歪み」は本質的には解消しません。 金融庁は、「保険金不払い問題」は各社の「構造的な問題」であるとし、関係閣僚は、「保険会社の自覚が深まればよい」、「各社はもう一度保険業の原点に」などと述べています。もちろん、関連する各社の経営者の責任は厳しく問われるべきです。しかし、今日の問題は、「自由化」そのものの「構造的な問題」であり、誰よりも責任を「自覚」し、「原点」に帰らなければならないのは当の金融行政です。業界全体のルールをどう構築するかに主眼を置いて、「自由化」そのものが反省され、見直されること抜きに、損保産業の「歪み」は根治できません。
「競争」と「処分」は車の両輪
しかし、損保「自由化」は、「構造改革」の重点とされる「金融改革プログラム」の一部として改めて位置づけられ、さらに一気呵成に進められようとしています。この「プログラム」の狙いは、グローバル競争を争う内外の大金融機関に使い勝手がよい金融システムを作ろうというものです。そして、「プログラム」の多様多岐にわたる項目に、保険商品のさらなる弾力化(付加保険料率の届出義務廃止)など競争激化をもたらす規制緩和と並んで、ガバナンス強化に重点を当てた監督指針の見直しがうたわれています。いわば、「競争」と「処分」は、「プログラム」の目的地に向けて、「自由化」を格段に加速させるための車の両輪です。これでは、強権的な行政処分は、競争をただすのではなく、むしろ激化させていく力になり、結局は、競争に耐えられないものを振り落とすものとなりかねません。その結果、損保産業の「歪み」はただされないまま、より大きく、深刻な「歪み」が常に生まれていくことになります。
再び訴える 真に「健全」な産業の発展のために
昨年10月、私たちは「拡大常任声明 保険金不払い問題について」を発表し、金融行政、損保経営者に、この問題を、損保「自由化」が生む無秩序な競争の「歪み」をただす契機とするよう強く訴えました。しかし、「自由化」はますます加速され、同根の行政処分を通じ、損保産業のあり方がさらに鋭く問われています。いま、私たちは再び、金融行政とすべての損保経営者に、あらためて「自由化」そのものへの反省と見直しを行うことを再び求めます。また、「不払い事案」の点検作業などで、損保の職場では喧騒と混乱が続いており、本来業務への支障、従業員の健康問題への適切な対応がはかられることも必要です。 働く者は誰しも、社会的役割と無縁な競争激化ではなく、補償機能の発揮という誇りと働きがいのある仕事を通じ、損保産業の現状を変え、真に「健全」な発展を追求していくことを望んでいます。そのために、私たち全損保も、この事態をあらためて重く受け止め、損保産業に責任を持つ労働組合として、国民・消費者のための損害保険を守るため、運動を進めていきます。 以上
2006年8月9日 全日本損害保険労働組合 産業民主化対策部 |
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