保険金不払い問題について
「自由化」が生んだ競争の「歪み」をただす契機に
 損害保険業界の「保険金不払い問題」は、2月の富士火災の公表をきっかけに各社の調査が進み、計16万件、総額66億円の不払いが明らかにされたと報じられている。その原因を各社は「保険金支払い時のチェック機能の不十分さ」と説明している。補償機能の発揮という社会的役割に照らし、約款通りに保険金を支払う業務は基本的な損害保険の機能であり、「不払い問題」とは、その「歪み」に他ならない。
無秩序な競争が傷つけた損保の社会的役割
 大手5社を例に「不払い」の実態をみると、件数では80%以上、保険金額で70%以上が自動車保険に集中し、その半数が車両保険の特約に係っている。1998年、損保「自由化」(算定会料率遵守義務廃止)が実施され、損保業界の激烈な商品乱開発・乱売競争が幕をあける。料率の弾力化、担保範囲の拡大、サービス提供などが特約という形で付帯され、業界紙の紙面を連日飾った。しかし、それらは、消費者ニーズを十分に吟味したものとは言い難く、「他社対抗」、「他社追随」の号令のもとで乱発され、販売競争の具となっていった。システムや査定体制の構築、従業員や保険扱者の十分な研修と理解、パンフレット類などツール類の充実、などの準備も十分に行われず、見切り発車的に商品が発売されることもしばしば生じた。このような国民・消費者不在の商品乱開発・乱売競争こそ、「不払い問題」の根本にある。
 また、「自由化」は、損保業界は「合理化」競争を際限なく深め、人件費、物件費全面にわたる「スリム化」がはかられた。保険金支払いにかかわるシステム、業務、サービスセンターなどの部門も例外ではなく、商品内容の大幅な変化、複雑化とともに、要員削減、雇用の多様化が進み、もともとギリギリの対応を強いられていた職場の実態はさらに悪化し、十分な対応力が発揮できないという声が強まっている。この「合理化」競争も、損害保険会社の対応力を弱め、保険金不払いという問題につながっている。
 私たちは、『全損保緊急要求』運動を通じ、早くからこの実態を明らかにし、「新商品の乱開発・乱売に歯止めをかけること」、「商品開発にあたっては十分な準備期間をおくこと」、「競争促進、効率化一辺倒の経営姿勢を改めること」などを行政、経営に強く求めてきた。 しかし、行政は「自由化」の手を強め、経営は競争に明け暮れる。
 このように「不払い問題」とは、「自由化」のもとで激化する競争が、職場に映った「歪み」を顧みず、無秩序さを倍化させていく中で、損保の社会的役割そのものに負わせた傷である。
社会的役割を守るため、「歪み」を是正する契機に
 9月末、この事態を前に金融庁は損保全社に、保険業法に基づいて、支払い状況調査、発生原因の分析、再発防止策の報告を命じた。しかし、この問題は、何らかの特殊な事情から生じた問題ではなく、競争=消費者利便という「自由化」の「理念」そのものを根本から問い直すものである。単に各社を「チェック」するのではなく、金融行政そのものが「自由化」を真摯に反省し、競争強化の方向ではなく、社会的役割に依拠した損保産業の発展に責任を持たなければならない。金融行政、損保経営者に、この事態を、「自由化」が生む無秩序な競争の「歪み」をただす契機とするよう強く求めるものである。
 私たち全損保としても、損保産業に責任を持つ労働組合として、このような事態が生じたことを重く受け止め、国民・消費者のための損害保険を守る決意をあらためて表明する。


 2005年10月12日
全損保常任中央執行委員会(拡大)





このページのTOPへ