熱気あふれた
4・17シンポジウム

明日への展望、
組合の存在に確信

牛久保秀樹弁護士
牛久保秀樹弁護士
 4月17日夕方、全損保春闘統一行動の一環として、東京都中央大学駿河台記念館で、シンポジウム「危機と展望 そして労働組合の可能性 再編『合理化』情勢第二幕にどう向き合うか」が開催されました。未曽有の金融危機の背景と原因を探り、何が問題とされるべきなのか。この激動から「次の時代」の展望をどう見通すのか。そのもとにある損保再編「合理化」情勢第二幕に、私たちはどう向き合い、どこに労働組合の可能性をみるべきか。この、一人ひとりにとっても、労働組合にとっても重要なテーマに答えを見出そうと準備されてきたものです。125人が参加しました。パネリストには、高田太久吉さん(中央大学教授)、牛久保秀樹さん(弁護士)をお迎えし、全損保吉田委員長が加わりました。
  総合司会の中村副委員長がパネリストを紹介したあと、コーディネーターの尾高常任(賃対部長、あいおい支部)、土方常任(合対部・福対部長、日新支部)がデッスカッションがはじまりました。

金融危機 何が問題なのか
金融恐慌として起きる現在の生産と消費の矛盾 
労働組合、 市民社会が逆転の政策を迫らなければ解決しない


高田太久吉中央大学教授
高田太久吉中央大学教授
 金融危機の背景や原因、何が問題とされなければならないのか、を論議する第一討論では、冒頭、高田教授が報告を行いました。報告では、まず、報道されていない事実も紹介しながら、金融危機による損失の実態や想定される問題、金融機関の腐敗の現状、アメリカの政治情勢などを解き明かし、この危機の回復過程が近いという見方はできないという認識を示しました。そのうえで、金融危機の根本の原因として、一方で、何十兆ドルのも過剰な貨幣資本が世界中を動き回り、他方では、何億人という人が失業するという、生産恐慌ではなく金融恐慌として起きる、現在の生産と消費の矛盾の特徴を説明しました。そして、労働組合や市民社会の組織が力をあわせて、問題を指摘し、逆転する政策を迫っていく以外に、現在の金融問題を根っこから解決する方策はないという見解を示しました。
  これを受け、牛久保弁護士は、国際金準に照らした日本の社会保障の貧困さや貧困率の高さをあげ、労働運動とともに、本来あるべき水準・基準は何かを考えながら、とりくみをしていかなければならないと見解を述べました。吉田委員長は、欧米と比べた日本の損保産業の異常さを示し、持続的な経済・社会をつくる中で損保がはぐくまれるという未来を構想しなければならないと述べました。二人の発言を受け、高田教授は、まともな金融の実証的研究では、大規模化、多角化で収益性が高まるということは全く根拠がないと結論が出ていることに触れ、地域や個人に目を向け、人々の暮らしを支える金融がめざされるべきと指摘しました。

次の時代をどう展望するか
プラクティシング・ワーカーズ、社会的対話が社会改革の出発点


コーディネーターの土方常任(向かって右)
コーディネーターの土方さん(向かって右)、尾高さん(同左)

 次の時代の展望をどう見通し、その鍵は何が握るのか、という第2討論では、牛久保弁護士が報告を行いました。
  牛久保弁護士は、日本が、188のILO条約のうち75%が未批准という事実に触れつつ、平等、児童労働の禁止、強制の禁止、労働組合の団結の自由を守る条約については、ILOに加盟しているだけで強制力をもつという新たな段階に入っていることなどを説明しました。そして、ILOがディーセント・ワーク(働き外のある人間らしい仕事)の普及に努め、プラクティシング・ワーカーズ(現に実務に携わっている労働者)と社会的対話こそ社会改革の出発点とされていること、金融問題での監視委員会機能を作る動きがあることを紹介し、全世界の労働運動が問題意識を共有してとりくむ重要さを語りました。
  これを受け、高田教授は、「人間にふさわしい」社会と、社会全体の効率性を調和した「福祉国家」が展望されるべきとし、そこには現場で働く人々の情報や問題意識が生かされるしくみが重要になると述べました。吉田委員長は、全損保の活動に触れながら、幅広く構想でき、現状を変えていくための存在として、労働組合が未来を占う重要な存在になっているとし、可能性をどこまで広げるか、ということが大事だと述べました。

ディーセント・ワーキング・タイムにあらわれる労働者のありかた 
尊重される社会なくして経済危機は乗り越えられない


 最後に、コーディネーターが「この危機を本当の意味で乗り越えていくために人間が大切にされる仕組みがどうつくられ、どう守られていくのか。その中には、今日、お話しされたように、労働者がそこにどう意識的にかかわっていくのかということもキーワードになる」と触れ、それぞれのパネリストがまとめの発言をしました。
  牛久保弁護士は、ディーセント・ワーキング・タイム=人間らしい労働時間とは、健康によい労働時間であり、家族に友好的な労働時間であり、男女平等をすすめる労働時間であり、それを通じてはつらつとした労働力が実現でき、労働者に選択権が与えられなければならないと説明した上、ディーセント・ワーキング・タイムにあらわれる労働者のありかたが尊重される社会を日本と全世界につくらないとこの経済危機は乗り越えられないと確信したと述べました。
  続いて高田教授は、企業や社会が健全であるかどうかは、そこに生きている一人ひとりが「常識にかなっているかな」という基準が重要な評価基準であるということ。誰でも異議申し立てができ、取り上げられる仕組みが決定的に重要になるということ。大きな権力に異議申し立てを通すためにも、人間の連帯が社会の根幹をなすという価値観を共有する必要があると述べました。
 
活発に繰り広げられるディスカッション
活発に繰り広げられるディスカッション
 最後に、吉田委員長は、激動に労働者が投げ込まれていく状態は続くと指摘し、黙っていたらどうなるかわからないところに連れて行かれ、未来はひらけない。この時代の運動の基本的な大前提は、労働者が主張できる状況を守って、主張していくことにある。今日の討論で、生活や雇用、労働条件を守るということに、次の時代をきりひらく役割があることを実感させられた。経営統合や増資など、目の前には出来事が続き、我慢が求められることばかり続いているが、ただ、それを延長させるだけで、展望が描けないということがはっきりした。将来の社会をどうするかを構想し、変えていくというなかで、損保の真の展望が築かれる。それができるのは労働組合しかない。将来を語り、守り、つくるうえでも労働組合が胸を張るべき時代になっていると述べました。

 約2時間のパネルディスカッションには、会場からの真剣なまなざしが注がれました。ディスカッションを通じて、いま、私たちが直面する金融危機、そのもとの損保再編「合理化」情勢第二幕の背景や原因が根底から問いなおされ、将来を展望するにあたって現場に触れる労働者、労働組合の存在の大切さが明らかにされました。全損保は、このシンポジウムを、今後の運動にいかし、奮闘していいきます。

―感想―

  ディーセント・ワーク、ディーセント・ワーキング・タイムという言葉、考え方をはじめて聞きました。よりよい社会、会社を実現するために、積極的に導入すべきだと思いました。過酷な労働条件ですが、この考え方をがんばって職場に広げていきたいと思います。

 金融恐慌を改善していく方法として大幅な賃上げ要求は間違いではないという話に共感できた。春闘の中で、会社は不況を理由にいろいろと言ってくると思うが、それに惑わされず、こちらの主張ははっきりと会社に言っていくことが重要と感じた。

 組合活動の根底は、自分たちの生活、権利を守るという意欲だと思いますが、長期的な経済正常化への方法でもあるというお話を伺い、違った観点から組合活動を見直す機会になりました。

 サブプライム問題に端を発するさまざまな問題で、自分の生活が直接影響を受けると感じるようになってきた。高田先生の話では不況はまだまだ続くとのこと。こういうときこそ労働者一人ひとりの力を合わせて生活を守ることが必要だと思う。日本の将来も心配だ。アメリカ崇拝主義で、日本の地域社会や生活は置き去りになり、規模ばかり優先させてきた報いだと感じる。

 むずかしい内容でしたがたいへんためになりました。高田先生のお話はとてもわかりやすかったです。今回の金融危機は、新自由主義・市場原理主義などでこうなったと何となく思っていましたが、今日の話で、思っていた以上に、企業がメチャクチャなことをしていたことがわかりショックでした。この状況を良くするためには、何よりもきちんとした考えを持って実行できる政府をつくることが大切だと思う。しかし、会社員である私たちは会社方針に従う必要があるし、しかし、自分たちの意見もあり、労働組合がうまく会社と社員の意見をまとめ、いい方向に行けばいいと思う。うーん、むずかしい。


このページのTOPへ